大会長挨拶
トラウマケアの今、そしてこれから

第22回日本トラウマティック・ストレス学会
大会長 中島 聡美
日本トラウマティック・ストレス学会は2002年3月に発足しましたが、その背景には、日本において、阪神淡路大震災(1995年)、地下鉄サリン事件(1995年)をはじめ、かつてないような大規模災害やテロがあり、多くの人の心の傷(トラウマ)へのケアが必要とされるようになったことがあります。また、2000年代に児童虐待防止法(2000年)と配偶者暴力防止法(2001年)、犯罪被害者等基本法(2004年)が制定されるなど、これらの犯罪の被害者への支援が国の施策として推進されるとともに、今まで、沈黙せざるを得なかった被害者・サバイバーの方々が声をあげ、権利擁護、支援、ケア・治療を求めるようになりました。日本トラウマティック・ストレス学会は、トラウマによる心理的影響について学術的な知見を深めるための学会ではありましたが、特に、そのような一人一人の被害者の方が必要としている支援、ケア・治療を医療や心理臨床現場で提供できるようにすることを主眼としてきました。
学会設立当時は、医療や心理臨床家でもトラウマについての知見は乏しく、海外で有効な治療の研究報告を手探りしながら、専門家を招聘し、学び、日本でのエビデンスを打ち立てるという地道な努力を会員の方々が積み重ねてこられました。この20年の間に、日本においても、エビデンスのあるPTSDの治療の研究が行われ、医療保険の適応になる薬物が承認され、心理療法においても、現場の臨床家が学ぶことができる研修が数多く提供できるようになってきました。ISTSSをはじめとする国際的ガイドラインに推奨される治療の多くは日本でも学ぶことができるようになってきたのです。
しかし、これで十分なのか? その答えはおそらくノーです。一つには、PTSD以外のトラウマ関連の問題が精神障害とされるようになったことです。複雑性PTSD (ICD-11,2018)や遷延性悲嘆症(ICD-11,2018;DSM-5-TR,2022)が精神障害として位置づけられるようになりました。もちろん今までもこれらの疾患は知られていましたが、精神障害として位置づけられたことで、医療現場でもより積極的な治療が求められるようになったと言えます。また、災害や犯罪被害等の深刻な影響が社会的にも広く認知され、法律の制定や支援制度の普及、NPOをはじめとする支援団体の設立などにより、トラウマ反応に苦しまれてきた方々が、治療やケアを積極的に求めるようになってきたのですが、その需要に臨床家が十分こたえられる状況になってはいません。
本大会では、今私たちができるトラウマのケア、治療、支援について情報を共有し、そしてこれから求められる課題その対応に焦点を当てていきたいと思っています。
また、大会が開催される有明は、2021年の東京オリンピックの開催地でもあり、近年特に開発がすすんできており、海と近代的な建築物の立ち並ぶ地域です。特に夜景は美しく、参加者の方にはこの風景をぜひ楽しんでいただきたいと思います。
この大会が、トラウマケアに取り組む多くの方々にとって有益な場になることを期待しております。
会場:武蔵野大学 有明キャンパス
東京ベイエリア・都市風景
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