学会奨励賞発表
JSTSS22 ポスター賞について
第22回日本トラウマティック・ストレス学会のポスターは、プログラム委員と大会長によって審査を行いました。本大会では、非常に研究の質が高く、また社会的意義のある研究発表が多いため、審査に大変苦労しました。最終的には最優秀賞1題、優秀賞2題が選出されましたが、匹敵する研究発表も多かったことは、トラウマの研究、臨床実践の進展を示すものであり、大変うれしい結果であったと思います。
選考方法は、このように行いました。複数の委員によって以下の4つの項目(①独創性、②社会的・臨床的意義、③論理性、④表現)について5段階評価を行い、その合計点と特に優れている内容等を加味し選考を行い、最終的に高得点のポスターについてディスカッションを行った上で最優秀賞、優秀賞を決定いたしました。委員自身が関与しているポスターについては審査を回避するようにしています。
最優秀賞
P30東日本大震災後に出生した子どもを持つ保護者のトラウマ症状の中長期的な変化の分類と、症状の
慢性化に寄与する要因の検討
千葉 柊作
(岩手医科大学附属病院 児童精神科、東北大学大学院 教育学研究科)
< 講評 >
この研究では、東日本大震災の中長期的影響の中でも、今まで触れられることが少なかった震災後に出産した保護者において、慢性化したトラウマ反応を有する群があることと、そのリスク要因を明らかにしたことから、災害後に出産を経験する保護者に対する支援の在り方について重要な知見を報告している点で、社会的意義の大きい研究であることが評価された。このような課題については、縦断研究が必須であるが、しっかりした研究デザインと分析方法によって結果が導かれており、労作である。岩手医科大学を中心に行われた研究であり、被災地域の研究機関でなければなしえなかった研究であろう。今後も長期的な視点での研究が期待される。
優秀賞
P9性・ジェンダーを考慮した18 歳未満における性被害(CSA)と成人期のPTSD・複雑性PTSD
(CPTSD):全国規模の調査から
釋迦郡 詩織
(東京医科歯科大学 国際健康推進分野、東京医科歯科大学 精神行動医科学分野)
P32被虐待体験のある養育者における子育ての認識の評価に関する研究
森田 展彰
(筑波大学医学医療系)
< 講評P9 >
この研究では、2つの点で重要な報告がなされている。1つは、従来性被害の影響についてはPTSDが中心であったが、この研究では、ICD-11で複雑性PTSDが診断基準に含まれたことをふまえて、複雑性PTSDの評価を行い、子ども時代の性被害(CSA)経験者ににおいて複雑性PTSDのリスクが高いことを明らかにした点である。もう1つは、ジェンダーに注目し、男性の被害者においてよりトラウマの影響が深刻であることを明らかにしている。この講評が発表される時点では、おそらくジャニーズ事務所における性加害の問題が周知されているかと思われるが、男性の性被害防止と被害者への支援の重要性の根拠として重要な研究となるであろう。また、ウエブによる全国調査であり代表性の高いサンプルを用いた研究であることも評価された。
< 講評P32 >
この研究では、独創性があり、臨床現場における有用性の高い尺度であることが評価された。精神科や心理臨床、また児童相談所等において、被虐待経験のある養育者の養育困難の問題に直面することが少なからずあり、支援にあたって客観的な評価ができる尺度は、現場のニーズの高いものである。今後は、この尺度を用いた養育者への支援に発展していくことが期待される。